資料


常務理事会からのリレーメッセージ③

2022年5月27日

 自殺を来す方々の多くは何らかの精神障害を患っていると言われています。その中で最も多いのはうつ病で、自殺既遂者の少なくとも約2/3がうつ病を患っているとも推測されています。
 うつ病よりも患者数は少ないですが、境界性パーソナリティ症(最近発表されたWHOの第11回国際疾病分類ではパーソナリティ症、ボーダーラインタイプ)という病気があります。パーソナリティ症とは、以前は精神病質と言われており、難しい話になりますが、異常性格ではなく、異常性格のうち、その人自身のパーソナリティのために自ら悩むか、そのパーソナリティのために他者を害する病気と定義されていました。そして、正常なパーソナリティとは質的に異なるものと考えられていました。
 しかし、最近の考えでは、正常なパーソナリティからの連続性があると考えられるようになってきております。
 境界性パーソナリティ症はこのパーソナリティ症の一つのカテゴリーです。

 米国精神医学会の「精神疾患の分類と診断の手引、第5版(DSM-5)」によれば、その特徴は、

  1. 見捨てられることを避けようとするなりふりかまわぬ努力。自殺行為または自傷行為は含めない。
  2. 理想化と脱価値化との両極端を揺れ動くことによって特徴づけられる不安定で激しい対人関係様式。
  3. 同一性障害:著明で持続的な不安定な自己像や自己観。
  4. 自己を傷つける可能性のある衝動性で、少なくとも2つの領域にわたるもの。
    (例:浪費、性行為、物質濫用、無謀な運転、むちゃ食い)
  5. 自殺の行為、そぶり、脅し、または自傷行為のくり返し。
  6. 顕著な気分反応性による感情不安定性。
  7. 慢性的な空虚感。
  8. 不適切で激しい怒り、または怒りの制御の困難。
  9. 一過性のストレス関連性の妄想様観念、または重篤な解離性症状

 などです。

 上記のように、衝動性が強く、自殺行為を繰り返すことより、この病気の方の10%ぐらいは自殺に至ると言われています。
 以前は若い女性に多いと言われていましたが、最近では、性差はないという報告が多いです。
 この病気の患者さんはリストカットなどの自傷行為を繰り返し、希死念慮を訴えて受診することが多いです。治療は難渋することが多く、薬物療法は奏効しないばかりでなく、過量服薬の恐れがあるので、安易には投薬できないという特徴もあります。
 また、治療中に治療者との関係がうまくいかなくなったり、治療者が振り回される操作性という特徴もあるため、治療を継続することが難しいことも多々あります。
 この病気は年齢を重ねると症状が軽くなると言われてますが、10代後半~30代で症状が強い方は残念ながら自殺に至ることもあります。
 米国では1970年代、80年代には多くの著名な精神分析家が、精神療法を提唱し、その後、リネハン女史がDialectical Behavior Therapy(DBT:弁証法的行動療法)という手法を開発し、米国では現在、これがこの病気の治療法のスタンダードの一つになっています。残念ながら、我が国でこれを専門に行っている医療機関は非常に少ないのが現状です。
 しかし、DBTはこの病気の唯一の治療法ではなく、精神科医であればこの病気に対しての知識を有しており、その人が抱えている精神的苦悩に対して、精神療法を行っています。
 もし、この病気の可能性があるときは、精神科を受診して治療を受けて頂きたいと思います。

聖徳大学保健センター教授(精神科医)
丸田 敏雅


常務理事会からリレーメッセージ②

2022年4月19日

 日本の総自殺死亡数は2020年に11年ぶりの増加となり、2021年には微減したものの女性は2年連続で増加したことが報告されています。2020年の増加の背景や、増減の男女差の理由については、これまでにもさまざまな推測が公表されています。わたしたちも2020年の警察統計について独自の分析を試みた結果、この年の自殺についていくつかのことに気付きました。
 まず、自殺死亡が増加したのは2020年の後半に入ってからであることは、よく知られています。詳しく見ると、この年の上半期(6月まで)に自殺死亡数が前年比10%以上増加したのは3県で(ここでは県名を挙げません)、しかし下半期(7月以降)になると45都道府県で前年比10%以上の増加がみられたのです。
 大災害の被災地では、被災直後には自殺増加が観察されず、しばらく経ってから増加することがよくあります。これとの類似性から、COVID-19の影響がこの年の下半期になって自殺を増加させたのではないかとか、そこに有名人の自殺が重なってインパクトを与えたのではないかと推測する意見もあります。
 しかしよく考えて見ると、上半期に既に自殺が増加していた3県で、「他県より早くCOVID-19の影響が県民に及んだ」ということはなさそうです。有名人の自殺が続いたのは7月以降なので、その影響も考えられません。では、もっと別の理由によって、上半期から自殺が増えていたのでしょうか?
 また、全国的にはこの年に、男性の自殺は減ったが、それを上回る女性の自殺の増加が見られたわけです。しかし実は、47都道府県のうち6県では男性の自殺も増えていました(このうち2つは、上半期から自殺が10%以上増加した3県と重なります)。そして全国で見れば、男性の自殺死亡数はなお女性の2倍です。全国統計で「男性は減ったが女性は増えた」という部分だけ表面的に見たのでは、何かを見落とすことになりかねません。
 さらに、警察統計では自殺の動機も推定しています。もし2020年の自殺の増加がコロナ禍による雇用や経済への影響だとすれば、動機として「経済・生活問題」や「勤務問題」が増えそうに思えますが、実はこれらの件数は前年より減少していました。47都道府県のうち年間自殺死亡数が10%以上増えた8つだけを見ても、2020年に「経済・生活問題」「勤務問題」を背景とする自殺が増えたわけではありません。これはいったい何を意味するのでしょうか?
 一方、都道府県によっては「学校問題」「男女問題」などが前年比で10倍にもなったところがあり(決して人口や自殺死亡数の少ない県ではありません)、この地域では動機を推定する基準が変わったのではないかと疑いたくなります。もちろん自殺統計に少し詳しい方であれば、動機の推定が暫定的なものであること(真の動機とは限らないこと)を知っていますが、そうでないメディアや行政官がこれらを過剰解釈してしまわないかと心配です。
 以上からわかるように、自殺死亡統計を表面的にしか理解していないとミスリーディングをしてしまう危険がありますが、注意深く見れば何か重要な示唆を得られる可能性もあります。また既遂者の統計だけでなく、救急車搬送された自損例の統計や、病院を受診した自殺未遂者の統計まで合わせてモニタリングできれば、いっそう詳しいことがわかる可能性もあります。
 そこでぜひ、都道府県ごとの自殺対策推進センターでは、各地域の自殺関連統計のモニタリング体制を構築してほしいと思います。同時に国(の委託を受けた法人?)は地方から求められなくとも、少なくとも都道府県別の詳しい自殺統計を自動的に提供する体制を確立すべきである、ということを強調したく思います。

大分県立看護科学大学精神看護学研究室教授
影山 隆之


常務理事会からリレーメッセージ①

2022年2月10日

 新型コロナ第6波の襲来で憂鬱に囚われるかた、気持ちが投げやりになってしまうかた、たくさんおられると思います。それでも、多くのかたはため息をつきながら、「何とかやるしかない」と頑張ろうとされていることと拝察しますが、どうにも頑張ることができないかた、力が尽きてしまいそうになっているかたがたくさんおられるはずです。これをお読みになっているかたは、周囲の気になるかたに目配りをしていただければと思います。
 新型コロナ感染症以前から、毎年、大規模自然災害が続いていました。そのたびに思っていたことですが、「地域が大きな危機に晒されると、メンタルヘルス不調や精神的な病気に陥る人が増え、そして遅れて自殺が増えていく」ということがわかっているはずなのに、それにもかかわらず、いつもその都度、行政の自殺対策がストップしてしまいます。新型コロナ感染拡大下でも同じことが起きています。私が居住し働いている地域もそうですが、私の場合、道立医科大学の精神科の責任者であり、かつ自殺対策に注力をしている立場なので、こちらから行政に対して具体的な自殺対策企画を提案し、「行政になるべく負担をかけないように、私たち大学精神科のほうで企画・運営・実働をしますから・・」などとお伝えして実働に入りました(自殺未遂者ケアに取り組む3病院の連携、行政職員のゲートキーパー・トレーニング、大学生のメンタルヘルス支援の3本)。これとて、3回目のおしかけ提案でようやく稼働し始めたところです。皆様の地域ではどのようになっているのでしょうか。災害医療や災害地への行政職員派遣と同じように、自殺対策も並行して、例えば、孤立・孤独対策と共同で強化されたりすればよいのですが。このことは、さまざまな機会に日本の社会や行政施策における問題だと発言してきましたが、何も変わる様子がないので、もっと多くのかたとの問題意識の共有や提案が必要なのだと感じています。
 少し話がずれてしまうかもしれませんが、保健・医療・福祉の専門職の方を対象としたゲートキーパー・トレーニングをしていて思うことは、「日本の自殺問題の実状」や「自殺の危険因子」、「自殺対策の基本」、「取り組み事例」のような基礎的な話は、それぞれの専門教育(卒前教育)の段階で済ませておいて欲しいということです。ゲートキーパー・トレーニングを始めた、今から17,8年前は、専門職ではないかたと専門職とで内容を分け、専門職用にはやや難度を上げていましたが、すぐに内容を分けることをやめてしまいました。というのも、失礼な言い方になりますが、専門職の方の多くは、自殺問題の実状についても自殺企図者の心理や危険因子についてもほとんど知識を持ち合わせていないので、教育において専門職も非専門職もないことにすぐに気づいたからです。自殺は、10代から30代の死因の首位で、40代でも第2位、50代前半では第3位です。日本の公衆衛生上の最大課題の一つであるのにもかかわらず、いまだに、保健・医療・福祉専門職教育において教育コア・カリキュラム(必ず教えなければならない事項)に「自殺予防教育」という文言はありません。自殺対策基本法、自殺総合対策大綱をもつ高自殺率国・日本において、専門職教育をこのような状況のままにしておいてよいのでしょうか?
 他方で、日本の地域自殺対策を詳細に見てみると、熱心に自殺対策に取り組む行政や行政職員が顕著に増えていることも事実です。そうした方々に対する研修事業に参加すると、5,6年前までは、「どこから何をしたらよいのか」という方々がほとんどでしたが、最近では、積極果敢に直接的な対人支援事業を開始した行政が徐々に増え、受講する行政職員の課題意識、質疑もかなり具体的なものとなっています。かなり積極的なところと、そうでないところとで二極化傾向はあるものの、積極的な地域が他地域を引っ張っていくことも含めて今後に期待をしています。
 感染拡大状況においては、困窮しているかたへの迅速な対応が必要です。また一方では、自殺対策の土台を固める対策も必要です。今年は、自殺総合対策大綱の改定の年にあたります。おそらく改定案ができれば、パブリック・コメント募集が発信されると思います。上記の専門職教育に関する問題意識と対策については、かつて、私自身、パブリック・コメントで訴えましたが取り上げられませんでした。私はまた同じことを訴えるかもしれませんが、このコラムをお読みのかたは、皆様個人個人の問題意識に基づいて思うところを意見・提案として上げていただきたいと思います。奇しくも足掛け3年にも及ぶ感染拡大により、自殺対策に何が必要かという問題意識は、以前よりも具体化し、深化しているはずです。

札幌医科大学医学部神経精神医学講座 主任教授(精神科医)
河西 千秋


理事長からのメッセージ

2022年1月4日

 コロナ禍という言葉が使われてから丸二年が経ちます。思い起こせば2020年4月に1回目の緊急事態宣言が出されて以降、飲食業やホテル・観光業、交通産業など内需型サービス業と呼ばれる業種が経済的に大打撃を受けてきました。経済状況の悪化が自殺を誘発するのではないかと当初から懸念されていましたが、果たして2020年7月に自殺者が急増し同年10月にはひとまずのピークを記録しました。2020年6月から10月のたった4ヵ月で自殺者は40%も増えました。男女別で見ると、男性は24%増、女性はなんと73%増と女性への影響が深刻です。
 コロナ禍で若者の自殺が増えているという報道もありました。10代の自殺者数は2019年から2020年にかけて18%増加しました。20代では同じ期間に19%増です。10代の自殺者数を性別に見ると、男性が2019年から2020年にかけて6%の増加であるのに対し、女性では44%もの増加になっています。コロナ禍での自殺の増加は女性と若者に多いことがわかります。先の経済問題と重ね合わせると、内需型サービス業の不況が、そこで非正規雇用で働くことの多い女性や若者に負の影響をもたらしていることが容易に想像されます。
 コロナ禍の負の影響は経済問題だけではありません。コロナ感染の恐怖が日常生活に不安感をもたらしますし、感染対策の「自粛」が孤独や孤立感を強めてしまうことは想像に難くありません。家族と同居していても、家事負担の増大や、それまでさまざまな問題をはらんでいた家庭でドメスティック・バイオレンスや虐待が増えてしまうことが懸念されます。経済問題以外でも女性や若者へのストレスが大きいと考えられます。
 コロナ禍で増える自殺に対して「コロナ関連の自殺」という総称が当てられることがあります。確かにわかりやすい表現ですが、「コロナ禍でつらくなって、自殺が増えてるんだろうな」という理解でとどまってしまうことが心配です。「コロナ自殺が増えている。だからなんとかしないといけない」と社会に警鐘を鳴らすのにはわかりやすい表現が役立ちますが、その理解だけでは具体的な自殺予防策につながりません。コロナ関連のストレスがどのようにして自殺につながっているのかを知ることが大切です。そこに少しでも迫るため、当学会常務理事会が2020年11月から調査計画を練り始め、2021年5月から8月にかけて実施しました(協力のお願いや倫理委員会審査などで実施までに時間を要しました)。日本精神科病院協会、日本精神神経科診療所協会、日本いのちの電話連盟の協力を得て、支援者に現状を伺うアンケート調査を行いました。そして、その結果は2021年9月の第45回日本自殺予防学会総会(大塚耕太郎大会長、オンライン開催)で発表されました。
 希死・自殺念慮や自殺行動など自殺関連事象に関係すると思われる要因として一番多い回答は失業や経済困窮ではないかと個人的には予想していました。しかし、調査の結果、最多は「孤立・孤独感」で、全体の75%を占めていました。孤独・孤立感が自殺行動につながりやすいことはbeforeコロナの時からすでに知られていましたが、コロナ禍の今も、現場の支援者が遭遇する自殺関連事象の関連要因として一番多かったのは孤立・孤独感だったのです。孤立・孤独感の重要性をあらためて認識させられました。ちなみに、「経済困窮」は70%で第2位、「失業」は55%で第3位、「精神疾患の悪化」は50%で第4位でした。重複回答可の回答形式でしたから、オーバーラップしている事例が多いと思われます。経済困窮や失業が孤立や孤独感を強める場合があるのでしょう。経済困窮や失業など経済問題への対策は社会的な事業に分類されるわけですが、その実施の際には孤立や孤独感を和らげるような配慮も大事だと思います。さまざまなソーシャルサポートが作られることは大変望ましいことなのですが、「仏作って魂入れず」になってはいけないと思います。
 米国の心理学者のジョイナーたちはbeforeコロナの時代に自殺未遂者の調査から、自殺行動に関連する心理的要素として「所属感の減弱」と「負担感の知覚」を見出しました。これを引用して私は「疎外感」と「お荷物感(自分が周りのお荷物になっているという意識)」が自殺の危険因子であると言い続けてきましたが、孤立・孤独感という視点であらためて見てみると、疎外感はまさに孤立・孤独感に該当しますし、お荷物感も孤立や孤独に結びつきやすい心理だと再認識しました。ジョイナーらの知見は孤立・孤独感とも言い換えることができそうで、それがコロナに関わらず自殺の危険因子であり続けているのだと思います。そして、コロナ禍の恐ろしいところは、私たちの間に孤立や孤独感を広げ、深めているところです。今こそ、自殺予防の観点から、孤立・孤独感の問題に取り組む学際的な研究や活動が必要だと思います。
 ここで少し冷静な目も必要です。孤立し、孤独感に苛まれる人が皆自殺するわけではありません。したがって、孤立・孤独感を和らげるような社会全体への働きかけを行うと同時に、自殺関連事象を呈するようなハイリスク者へのケアを考え、実践する必要があるのです。自殺既遂者も未遂者もともに最終段階では多くの人が何らかの精神科診断がつく状態であったことが見出されています。だから、精神科医療はこれからも頑張り続けねばなりません。しかし、自殺ハイリスク者のケアは精神科医療だけで完結できるものではありません。個人の孤立・孤独感に取り組む多職種の連携が必要になります。多職種が集う当学会で連携について引き続き考えていきたいと思います。
 2021年はコロナ禍だけではなく、痛ましい出来事も少なくありませんでした。有名人の自殺もありました。心よりご冥福をお祈り申し上げるとともに、メディア関係者には報道に際して十分にご配慮くださいますようあらためてお願いいたします(当学会ホームページにも留意点を掲載しています)。また、12月には大阪のクリニックで言葉を失うほど凄惨な事件が起こりました。犠牲者の方々のご冥福を心よりお祈り申し上げるとともに、関係者の方々にお悔やみを申し上げます。この事件は拡大自殺とも言われています。他害行為は決して許すことはできません。ご遺族にとっては、他害行為に至るいかなる理由も許されるものではないと承知しています。しかし、社会全体としては拡大自殺に至る理由を知り、対策を考える必要があります。ここでも学際的なアプローチが必要だと思います。
 孤立・孤独感の問題に限らず、自殺予防には学際的な多職種連携が不可欠です。当学会はいろいろな人たちが集まる場でありましたし、これからもそうあってほしいと思います。そして、プラットフォームとしての役割を強化していきたいと思います。2020年、2021年と2年続けてコロナ禍のために対面式のリアルな総会(年次学術集会)を行うことができませんでした。2022年は熊本大学保健センター教授の藤瀬昇先生が大会長をお務めくださり、9月9日~11日熊本で総会が開催される予定です。コロナが落ち着き、多くの方々と熊本でリアルにお会いできることを心から願っています。熊本大会の成功と学会の更なる発展のために皆様のお力をお貸しください。心よりお願い申し上げます。

一般社団法人 日本自殺予防学会
理事長 張 賢徳


2021年12月6日

本学会は、救急患者精神科継続支援の診療報酬要件研修会を主催していますが、未遂者支援のエッセンスを短時間で学習できる研修会です。さまざまな職種の方が参加できます。
詳しくはこちらをご覧ください。


2021年5月28日

日本うつ病学会 自殺対策委員会企画研修会
「自殺が生じた後のケア:患者を失った医療者、同僚を失った勤労者のケア」
事前登録が必要です。登録案内は、5月下旬以降、第18回日本うつ病学会総会HPにて掲示される予定です。



2021年3月11日

大塚耕太郎 (日本自殺予防学会事務局長・常務理事)
岩手医科大学医学部神経精神科学講座/災害・地域精神医学講座,岩手県こころのケアセンター

 令和3年3月11日、東日本大震災津波と福島第一原発事故から10年が経ちました。震災によって亡くなられた方々とそのご遺族に対し、深く哀悼の意を表しますとともに、被災された方々と家族や関係の皆様、そして被災による影響をうけ困難な生活を余儀なくされた方々にこころよりお見舞い申し上げます。また、復興支援にご尽力されてきた関係各位の皆様にこころより敬意を表します。私自身も深刻な医師不足に直面する岩手県で、発災よりこれまでこころのケアに携わってきました。これまでご支援賜りました方々へ心より感謝申し上げます。
 東日本大震災津波の被災地では深刻な自殺の危機に直面する方々への支援が重要であり、平成24年8月に閣議決定された自殺総合対策大綱の当面の重点施策において、大規模災害における被災者のこころのケア、生活再建等の推進として位置づけられ、被災地での自殺対策が推進されてきました。
 被災当初から岩手県沿岸は医療資源、社会資源とも不足し、地域の支援は長期間にわたって困難に陥ることが想像されました。自殺総合対策大綱において被災地のこころのケアや生活再建なども自殺対策と位置づけていただいたことは、被災地での支援に大きな支えとなり、当時の内閣府の自殺対策推進室やそれにかかわる多くの方々のご尽力がありました。また、こころのケアや生活支援、健康支援など多くの支援ですが、復興庁や厚生労働省など関連省庁、関係自治体等の働きかけと現場の従事者の献身的な活動のおかげで、強大な災害支援が10年にわたって推進されました。
 被災された方々は、この10年間、避難所から仮設住宅、災害公営住宅や自宅再建への移動、また地元を離れることを余儀なくされ、さらに復興への期間が延長している状況下において、時間の経過とともに医療費、経済的自立、高齢化など、現実的な生活の様々な困難を抱え、持続的なストレスにさらされてきました。
 ようやく住居が確保され、インフラが整備されてきました。しかし、被災地の復興はまだ途上です。暮らしを回復するには至っていない方もおられます。地域が安心できる居場所となり、被災者が落ち着いた暮らしを送ることができるようになるには、まだしばらく時間がかかることが想定されます。たとえば、住民同士の繋がりが減弱し、地域との結びつきの希薄さ、孤独などの問題は、インフラが整備された後にも継続しております。加えて、被災地で働く自治体職員や復興関連業務従事者、対人援助職等の勤労者のストレスが続いていることも深刻な問題です。
 このように、長期にわたる心身の健康問題が想定され、さらにコロナ禍においてはお互いのつながりが減るため、被災地でも健康問題リスクがさらに高まりました。災害後の現実的な社会的援助があることは生活状況やメンタルヘルスに関連するため、長期的な視点で対人支援と健康づくりの支援が必要です。住民が安心して暮らせるようになるために、地域と連携した活動が必要となり、復興支援が継続されることが最重要課題となります。たとえば、相談対応や健康づくり推進,相互交流・支援を深化させ、健康格差へ配慮する視点が求められます。そして、ハイリスク者ケアや、健康づくりをとおした周囲の理解の深化、地域の支援体制の強化が求められます。見守りや、コミュニティ形成や実務者派遣、被災者の救済制度など様々な支援活動もなお一層重要になります。岩手県沿岸でも東日本大震災追悼行事が開催され、地震発生時刻の14時46分に防災無線のサイレンが被災地に鳴り響く中、亡くなられた方々のご冥福をお祈りし、黙祷が捧げられました。被災地の方々はこの10年、想像を絶する苦難の連続であったと思います。復興を通した歩みが本日を区切りとするのではなく、通過点としてさらに推進されていくことを願っております。
 最後になりますが、日本自殺予防学会の張理事長、河西副理事長をはじめとした学会の皆様方にも、温かく支えていただき、感謝の念はつきません。そして、全国の自殺対策に関わられる方々や被災地支援や自殺対策に関わる皆様方のご健勝をお祈り申し上げます。


2021年2月16日

一般社団法人日本自殺予防学会・日本自殺予防センターの主催で、オンラインシンポジウム「コロナ禍における自殺予防」を開催します。

参加費無料・お申込みは不要です。配信期間中に下記詳細の講師ごとのタイトルをクリックし、動画リンクからご覧ください。 ※公開は終了いたしました

YouTubeが開きます。関連動画や広告等は本学会とは関係ないものもございますので、ご了承ください。

<詳細>

動画配信期間:2021年3月8日(月)~3月21日(日)
対象:学会員・医療関係者・行政関係者など自殺対策に関心のある方
申込:不要

プログラム:
趣旨説明(1分19秒)
大塚耕太郎(岩手医科大学医学部神経精神科学講座教授)

自殺予防はじめの一歩 ~自殺予防はみんなの仕事~ (28分30秒)
張賢徳(一般社団法人日本自殺予防学会理事長/日本自殺予防センター長/帝京大学医学部付属溝口病院精神神経科教授)
コロナ禍における自殺者数の推移~2020年の統計から~ (19分20秒)
森山花鈴(南山大学社会倫理研究所/法学部法律学科准教授)
コロナ禍の自殺予防支援者、医療従事者の支援 (18分32秒)
太刀川弘和(筑波大学医学医療系臨床医学域災害・地域精神医学教授)
「新型コロナウイルス問題」と向き合うメンタルヘルス活動:これからの自殺対策のために (15分17秒)
影山隆之(大分県立看護科学大学看護学部精神看護学研究室教授)
COVID-19と自殺未遂者 (24分46秒)
衞藤暢明(福岡大学医学部精神医学教室講師)

お問合せ
一般社団法人日本自殺予防学会事務局
jasp-post[at]bunken.co.jp ([at]を @ に変えて下さい)

一部、第40回日本社会精神医学会でのシンポジウム2(S2)「コロナ禍における自殺予防」の内容を転載してお送りします。
今後も講演者・演題・配信期間の変更の可能性があります。
配信動画の録画、録音、スクリーンショットはご遠慮ください。

IASP日本代表からのメッセージ

2020年12月24日

 2020年も残すところ数日となりました。生活様式、働き方、人とのつながり方が強いられるように変化し、その目まぐるしく変わる変化に置いて行かれぬように必死に走り続けた1年だったように思います。新しいスタイルを取り入れていくチャレンジは、日が経つにつれて重く受け入れがたい課題となっていき、「たくさんのことが変わってしまったな…」と喪失感を抱くこともあったように思います。そうした中、12月のある日の夜に、職場の隣にある老舗ホテルの横を通った際、ホテル正面に例年通りに豪華で綺麗なクリスマスの装飾が丁寧に施されていることに気づきました。今年はホテル前の道も随分人通りが減ってしまい、イルミネーションを見る人も限られている中、いつも通りに鮮やかに光り輝くクリスマスイルミネーションを見て、変わらないものがあることに心底ほっとして安心し、同時に感謝の気持ちが溢れてきたことを覚えています。変わることや離れることが日常となった今、変わらないでそこに居続けること、あり続けることは人を安心させ、安全を保証し、救いにもなるように思います。現在、相談機関のあり方や相談方法も変化を余儀なくされていると思います。支援者は、この未曾有の危機のなかでも、自身の健康や安全を維持し、そしてニューノーマルを受け入れながら、支援を必要とする方々にとって変わらない対象として居続けられるよう努めていくことが大切ではないでしょうか。
 話は変わりますが、先月、11月23日と24日に台北で第9回国際自殺予防学会アジア-太平洋ハイブリッド会議(9th IASP ASIA-Pacific Hybrid Conference)が開催されました。アジアだけでなく、アメリカやヨーロッパなど世界各国から、自殺予防に日々尽力している支援者や研究者などがオンラインを通じて集いました。自殺予防は全世界共通の課題であり、みなが情報や知恵を持ち寄って共有し、共通目標に向けて歩みを進めていく必要性をあらためて深く感じる機会となりました。
 これまで、国際自殺予防学会(International Association for Suicide Prevention:通称IASP)は、毎年テーマ(標語)を掲げてきました。例えば、2005年の「Prevention of Suicide is Everybody's Business(自殺予防はみんなの仕事)」や2007年の「Suicide prevention across the Life Span(生涯を通した自殺予防)」などがありました。これまでは毎年違ったテーマでしたが、2018年からは3年連続で「Working Together to Prevent Suicide」が掲げられています。日本語翻訳としては「手を取り合い 共に働き 共に自殺予防」とされています。これは、自殺を予防するためにみなで協力し合おう、ということを意味しており、この意識が多くの人の心に届き定着することが望まれています。社会から自殺をなくしていくことは、専門家だけでできることではありません。みなで協力し合うことが大切なのです。そのためには、周囲に無関心でいること、現実に起こっていることを知ろうとしないこと、目を背けようとすることを一人一人が意識して変えていく必要があります。日頃から、家族や友人、職場の仲間など周囲の人たちとつながりを築くことを心掛け、自分が孤立しないこと、そして人を孤立させないことが大切です。また、いつもと違う様子が感じられたら、「どうしたの?」と声をかけ、話を聴いてほしいと思います。この「どうしたの?」や「なにかあったの?」といった最初の声かけがとても大事なのです。暗く深い穴の中で、ひとりで悩み苦しんでいる人に対して、穴の上から巧みで素晴らしい言葉をかけるよりも、穴の下まで降りていき、うまく言葉にならなくてもそっと声をかけてそばに居ることが孤独や絶望から抜け出すきっかけになるのです。そばに誰かが居てくれることで安心したり気持ちが安らいだりした体験を思い出してほしいと思います。その体験を思い出すことで暗く深い穴の底に降りていく準備ができると思います。みなで支え合い協力し合う文化が育まれ根付いていくことを心より願っております。

明治大学文学部心理社会学科臨床心理学専攻専任講師(臨床心理士・公認心理師)
川島 義高


2020年12月16日

本学会は、救急患者精神科継続支援の診療報酬要件研修会を主催していますが、未遂者支援のエッセンスを短時間で学習できる研修会です。さまざまな職種の方が参加できます。
詳しくはこちらをご覧ください。


日本自殺予防センター事務局長からのメッセージ

2020年11月15日

 新型コロナウイルスの感染拡大により、ほんの数ヶ月前まで「当たり前」だったことが「当たり前」ではなくなっています。このような状況の中で、今、皆さんは、ある意味とても深刻な災害の渦中にいるにもかかわらず、できるだけ「いつも通り」「例年通り」にしようと無理をされているのではないでしょうか。人は、良いことであれ悪いことであれ、環境の変化が生じると大きなストレスを感じます。そして、そのストレスは心身に大きな影響を与えます。そのため、「自分は大丈夫」と思っていたとしても、実は大きなストレスにさらされているということを、私たちは認識する必要があります。
 いつもと体調が違うと感じている方(眠れなかったり、食欲が落ちていたりすることが2週間以上続くなど)や、悩んでいる方は、まずはお休みを取ってみたり、身近な人やお医者さんに相談したりしてみてはいかがでしょうか。なかなか休めない状況にある方も、「こころ」にも「身体」にも無理には限界があるので、それが来てしまう前に休むことはとても大事です。身近な人に気を遣ってしまう場合には、最寄りの役場や精神保健福祉センター・保健所にも相談することができます。そして、周りの方は、悩んでいる人に気づいたら、「そっとしておく」のではなく、まずは声をかけてみてください。その上で、話をしっかりと聞いて、必要な支援(医療や福祉など)につなげ、見守ることが重要です。この行動が出来る人のことをゲートキーパーと呼びます。今の時期は直接会うことがまだまだ難しい状況ですが、もし、心配な友人や家族がいる場合には、いつもより少しだけ多めに連絡を入れてみることも大切です。
 ここ数ヶ月、報道では、前年同月比で自殺者数が増えていることが大きく取り扱われています。そして、芸能人の自殺も続いたことから、多くの自殺関連報道を目にするようになりました。前年同月比で女性の自殺者数が増えたことや、その原因も語られますが、実は女性の自殺の原因動機としては「健康問題」だけでなく「不詳」が増えており、増加の要因ははっきりとはわかりません。
 先日、日本自殺予防学会からも「最近の自殺の報道に関する緊急提言」を出させていただきましたが、メディアをはじめSNSなどで情報の発信源となる方には、自殺に関する報道を広める前に、その報道がもたらす影響について、少しだけ考えていただけたら有り難いです。詳細な自殺関連報道がなされることで、多くの方の心にも影響がありますし、今自殺を考えているほど悩んでいる方や自死遺族の方もとても辛い思いをすることになります。また、これまでの研究で、自殺報道が増えると自殺が増えるということがわかってきています。そのため、できれば、「自殺が増える」と不安を煽るよりも、悩んだ時の対処方法や相談窓口について報道していただきたいと思います。なお、WHOは、「メディア関係者自身が、自殺による影響を受ける可能性があることを認識すること」も重要であると述べています(WHO「自殺対策を推進するためにメディア関係者に知ってもらいたい基礎知識(2017年版)」自殺総合対策推進センター訳)ので、自殺関連報道に触れることのある方は自身への影響についても気をつける必要があります。
 今年、自殺予防学会は50周年を迎え、学会の研究や実践活動の成果を基に啓発・教育研修活動等を広く推し進め社会的還元を行うために、日本自殺予防センター(センター長:張賢徳、英語名称:Japan Suicide Prevention Center)を立ち上げました。今後、普及啓発や人材育成研修の実施、教材の作成等を予定しています。
 「自殺対策」は「特別な政策」ではないですし、専門家しか関われないものでもありません。それぞれの立場でできることが必ずあります。今みなさんがもうすでに行っていることに、ほんの少し「自殺予防」や「自死遺族支援」の観点を持っていただき、ご協力いただけるとありがたいです。

南山大学社会倫理研究所・法学部准教授
森山 花鈴


報道機関はじめ情報発信に関わる全ての皆様

2020年10月26日

 最近の新型コロナ禍での自殺報道に関して、日本自殺予防学会は、5月に国際自殺予防学会(International Association for Suicide Prevention)の緊急提言を邦訳、発信し注意喚起を行ったところではありますが(http://www.jasp.gr.jp)、今回、著名人等の自殺の報道に接し、自殺予防のためにさらなる対策を社会が進める必要があると考え、報道機関をはじめ、情報発信に関わる全ての皆様に以下の緊急提言をいたします。

1.自殺報道をむやみに繰り返さない、憶測で物語らない、広げない
報道機関やデジタルメディアの発信者のみならず利用者におかれましても、著名人等の自殺が大きな衝撃と不安を与えることから、人々が憶測で語られた自殺の要因に影響を受け、共感を高めて自殺に傾くことのないよう、静かに故人を悼むことに徹し、速報、繰り返しの報道、憶測のコメント、他のニュースメディアへのリンク等を控えるようお願いします。

2.コロナの自殺への影響、月別の自殺者数の原因は安易に解釈しない
新型コロナウイルスの自殺への影響について十分なエビデンスはまだありません。自殺は単純な、あるいは単一の動機で起こるものではありません。自殺の月別データは、特定の対象集団に焦点をあて、限られたデータから不確かな解釈をすることで、その集団の自殺リスクを高める恐れもあります。単一の要因を強調して、誤解を与えかねない過度な報道は控えてください

3.自殺事件直後に警察は動機や具体的手段を知らせない
警察等行政諸機関におかれては、自殺が疑われる事件の発生直後の、報道機関やデジタルメディアに対する自殺の動機や手段に関する具体的な情報提供を、模倣自殺防止の観点から控えるようお願いします。

4.コロナ危機の対処法やがんばる人々の物語は報じるとよい
一方で、新型コロナ禍により誰もがストレスを抱えていることは確かです。苦しんでいる人々の参考になるよう、報道機関やデジタルメディアは、危機的状況にあっても前向きに対処する人やそれを乗り越える物語、具体的なストレスへの対処法や心が弱っている方への相談機関の情報、社会資源の情報を積極的に発信・共有してください。

5.様々な手段を活用し、いつも通りの自殺予防活動を行うとよい
新型コロナ禍においても、気づく、声をかける、話をきく、社会資源につなげる、そして見守るといった自殺予防の基本的対応は同じです。情報発信が簡単にできる一方で、コミュニケーションの自由が制限されている今日、情報発信に関わる全ての皆様は、自殺予防に重要な役割をお持ちです。様々なコミュニケーションツールを活用し、互いを思いやる気持ちを強めて、この危機を共に乗り越えましょう。

参照
1)国際自殺予防学会(IASP)からの新型コロナウイルスに感染症感染拡大に関する緊急声明(日本自殺予防学会による監訳)
http://jasp.gr.jp/document.html#kinkyuseimei20200527
2)メディア関係者の方へ(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/jisatsu/
who_tebiki.html

【本提言に関するお問い合わせ】
一般社団法人日本自殺予防学会事務局
jasp-post[at]bunken.co.jp([at]を@に置き換えてください)

日本自殺予防学会 常務理事会


理事長からのメッセージ

2020年9月28日

 コロナで苦しんでいる人が増えていて、自殺者の増加が心配されています。
 芸能人や著名人の自殺報道も続き、その波及効果による自殺者の増加も心配されています。
 人はどうして自殺するのでしょうか?
 有名な自殺学者であるシュナイドマンは「精神痛」が共通する心理だと言いました。精神科医ベックは「絶望感」を指摘しています。心理学者ジョイナーは「所属感の減弱(=疎外感)」と「負担感の知覚(=自分が周りのお荷物になっているという感覚)」が自殺行動に共通する心理だと言います。
 いずれにしても、自殺を考える入り口は「つらさ」です。今まさに「死ぬほどつらい」状態にある人は以下を読んでください。できるだけ簡潔に書きます。
 「つらさ⇒自殺」の「⇒」には、生い立ち、価値観、思想信条、サポート・助けの有無、うつ病などの精神科の病気などが含まれるのです。有名人の自殺報道ではそのあたりの詳細が報道されませんので、「あー、あの人もきっとつらいことがあって自殺したんだろうな。だったら、私も・・・」という心境が誘発される危険性があります。他人の自殺の一面だけを見て、「じゃあ、私も」と一線を越えてしまうのは絶対によくありません。死んでしまったら、もうこの世には戻ってこれません。遺された人たちも一生苦しみます。
 今ある現実的な悩みや心の苦しみ、あるいは精神科の病気はすぐには解決しないかもしれません。しかし、あきらめないで相談してください。思い切って相談してみると、自分が思っている以上に助けやサポートが得られるものです。「もうすでに相談しているけど、うまくいかない」という人も、あきらめないでもう1か所相談してみてください。うつ病体験の本を書かれた倉嶋厚さんの言葉「やまない雨はない」を思い出してください。
 相談機関はいのちの電話が有名ですが、そこだけではありません。厚生労働省のホームページ「まもろうよ こころ」に相談窓口が他にも紹介されています。お住いの自治体の精神保健福祉センターでも相談に乗ってくれます。
 身近に心配な人がいる、という人には是非「TALKの原則」を思い出していただきたいと思います。Tell(声をかける)、Ask(具体的に尋ねる)、Listen(傾聴する)、Keep safe(安全を確保する=応援を求める)です。相談を受けた人が一人で全部解決できるわけではありません。相談を受けた人が精神保健福祉センターなどの相談機関に助けを求めてもいいのです。すぐに解決できない問題もたくさんあります。大事なことは、「一緒に考えるよ、一緒に悩むよ」というメッセージを困っている人に伝え、孤立感をやわらげてあげることです。
 人生はつらいことのほうが多いかもしれません。それが人生だと思います。「なぜ生きないといけないのか」と患者さんから問われて答えに窮することがあります。私は精神科医ですが、精神医学がそれに対する答えを持ち合わせていないのです。哲学や宗教の問題だと思います。健全な宗教や信仰心は必要だと個人的には思いますが、特定の宗教に誘導するつもりはありません。ただ、絶対に一つ言えることは、自殺しないですむ方策が必ず見つかるということです。悩みを打ち明け、助け合えることがもっともっと広がることを切に願っています。

一般社団法人 日本自殺予防学会
理事長 張 賢徳


新型コロナウイルスに関して 常務理事会からリレーメッセージ⑥

2020年9月28日

「2019年12⽉に中国湖北省で発生したSARS-CoV-2ウイルスによる感染症(COVID-19)は、世界中に感染拡大し、WHOが2020年3⽉11⽇にパンデミック宣⾔を出した。9月17日現在、世界の感染者数は約2,962万⼈、死者は約94万⼈となった・・」
昨日みた報告書の書き出しですが、普通に読むとまるでSF映画のナレーションです。2020年、SF映画の世界がついに現実になったのです。アメリカ映画ではこのような場合、ヒーローが現れて悪の秘密結社と対決したり、ワクチンを開発したりして人々の命を救います。そこで今、世界では医療従事者を拍手や花火でたたえています。皆医療従事者をヒーロー扱いするのです。しかし、個人主義が浸透しているアメリカ映画ならまだしも、このような光景をみて、日本人の私は「つらいけれどがんばれ」という職業義務を強制するメッセージを感じてしまいます。
 海外の報告をみると総じてCOVID19に対応する医療従事者のメンタルヘルスは悪化しています。なんと武漢の医療従事者の二人に一人がうつになっています。日本の医療従事者に悩みを聞くと、「自分や家族が感染するかもしれないのに、COVID19の治療をしなければならない」「危険な仕事をしているのに、病院は赤字になり、給料は減らされた」「COVID19の治療をがんばってしたら、濃厚接触といわれて差別を受けた」など、自分が今まで持っていた治療やケアの常識、価値観に反して任務を遂行する、あるいは任務を強制されて差別を受けるというジレンマが、メンタルヘルス悪化の大きな要因になっているように思えます。
 このように個人が自分の思いに反して組織の結論に従う行動の結果、個人の道徳、倫理観、信念、価値基準であるモラル(Moral)が混乱することを「モラル・ジレンマ (Moral Dilemma)」、その結果モラルが傷つくことを「モラル傷害 (Moral Injury)」といいます。元々兵士が戦争で体験する不条理なエピソードから作られた言葉で、兵士の士気を意味するモラール(Morale)とは異なります。聞きなれない言葉ですが、例えば、将軍の命令で無謀な作戦に従事したとか、組織のために不正を隠ぺいしたことで個人が傷つく、といいかえるとイメージしやすいのではないでしょうか。個人のモラルを脅かすような特定加害者の行為をモラル・ハラスメント(モラハラ)といいますが、個人のモラルはその人の生活行動のみならず職業意識にも関わる幅広い価値観ですので、特定個人ではなく所属組織や出来事が理不尽であっても傷つくと考えられます。モラル傷害は、個人の燃え尽きやうつ、PTSD、自殺、辞職につながる深刻な心理的危機をもたらします。欧米では、COVID-19の対応の中で、医療従事者にこの「モラル傷害」が生じていることが懸念されています。感染防御具が足りないのに働いたり、怖いのにヒーロー扱いされたりすることは、医療従事者のストレスを高め、モラル傷害が生じる恐れがあります。
 考えてみると、モラル傷害になりそうなジレンマは医療従事者に限って生じていることではありません。縦割りの庁舎で不眠不休の働きをしている役所の人も、自粛でお客がいない旅館や飲食業の人も、そもそも感染者を減らしたいのに経済活動しなければならないというジレンマの中で、みんなモラルが参っています。こんな不条理な世界で、私たちはどのような心持で日々の活動をしたらいいのでしょうか。
 モラル傷害を防ぐために、欧米の報告では幾つかのポイントがあげられています。それは、 1)自分を大切にすること、2)家族や仲間を大切にすること、3)仲間とコミュニケーションをよくとること、4)正しい情報を提供すること、5)自分たちの役割の限界とモラルを共有すること、です。当たり前と思われるかもしれませんが、危機になった組織や社会では、チーム活動においてこのような意識を持つことがとても重要です。
 ところで、日本の映画やドラマでは、一人で戦う強いヒーローはあまり出てきません。ウルトラマンは巨大な神仏ですし、ゴジラと戦うのは自衛隊ですし、仮面ライダーは今何人いるか数えられません。つまり日本ではチームで何とか戦うことが勝利の方程式なのです。現在封切中のリアルSF映画「COVID-19」を、登場人物である私たちが乗り越えるために、職種や立場を超えて互いを思いやり、気持ちを密にしてチームで何とかやっていきましょう。物理的に距離をとらなければいけなくても、ミュート機能で相手が何を考えているのかわからなくても、それはコミュニケーションの手段が限られているだけで、互いの気持ちのつながりを阻むものではありません。何十年か前の世界に戻っただけかもしれません。インターネットのない時代には、手紙一通を書くのに気持ちを込めて何度も推敲し、たまにあえたらとびきりの笑顔や感謝を伝えることが、できていたはずです。
 むしろ気を付けなければいけないのは、コミュニケーションを物理的にとれない人、孤立している人々です。アルバイトを切られた母子家庭のお母さん、店をたたまざるを得ない老夫婦、ネットの使えない無職の人、いつまでも学校にいけずに課題をこなす若者に目を向け、積極的に温かい言葉をかけ、困っていることを聴きましょう。

我々は皆人間チームの一員で、ヒーローなんていらないのです。

筑波大学医学医療系災害・地域精神医学教授(精神科医)
太刀川弘和


2020年9月7日

現時点で、500名近くのお申込みをいただいており、さらに定員を1000名までに増やしました。また、申し込み締め切り日を9月11日(金)正午までに延長いたしました。

お申込みいただいた方に、9月12日(土)午前中に受講に際してのURLなどをメールでお送りいたします。メールが届かない場合には、日本自殺予防学会広報委員会jasp.renraku[at]gmail.com([at]を @ に変えて下さい)までご連絡お願い致します(迷惑メールフォルダなどに振り分けられてしまっていないかご確認ください)。

なお、本講演の資料配布は予定しておりません。また、本講演の録画を後日配信する予定はありません。ご了承いただけますと幸いです。

参加申し込み:2020年9月11日(金)正午までに、
https://forms.gle/gtdGy4MV8dZpmX8o6
よりお申し込みください。定員に達した場合は参加をお断りする可能性がございます。


新型コロナウイルスに関して 常務理事会からリレーメッセージ⑤

2020年9月1日

 COVID-19による感染拡大で我々を取り巻く状況が大きく変わった。臨床場面でもこれによると思われる精神障害も散見されるようになってきている。
 最初に、古くは梅毒恐怖、エイズ恐怖などと呼ばれてきたものと近似するいわゆるコロナ恐怖である。精神病理学的には疾病恐怖と呼ばれ、最近の米国精神医学会の精神疾患の診断と統計のためのマニュアル、第5版(DSM-5)では不安障害に属するものである。
 著者が経験した症例は、60代の男性で糖尿病を基礎疾患に持っていた。内科の主治医から「○○さんは糖尿があるので、コロナにかかったら一発でアウトだよ」と言われたのを契機に、家のなかでも四六時中、マスクをつけるようになり、手で触れたところを全て消毒するようになった。自分でもやり過ぎではないかと思っていたが、「コロナが不安で仕方がない」と精神科を受診した。うつ症状はなかった。本人も感じている恐怖は不合理であると認識しており、対応も冷静であった。このため、SSRIと呼ばれる抗うつ薬(抗不安薬としてもしばしば用いられる)を投与したところ、2回目の受診時には「すっかり不安感はなくなった」と述べるまでに回復した。
 これとは別に本格的なうつ病になった症例も耳にする。最初はやはり上記の症例のようにコロナに対する恐怖感が出現し、その後、自費でPCR検査を行っている内科を受診して検査を受け、陰性の結果が出た。しかしそれでも「自分はコロナに罹っている」と別の内科で再度PCR検査を受け、それでも納得せず、家でもうろうろするようになったため、家族に付き添われて精神科を受診したという。このケースでは疾病恐怖のレベルを超して、疾病妄想まで至っていると思われる。
 このようにCOVID-19関連の精神障害は軽度のものから重度のものまで様々である印象を受ける。

 次いで問題になるのは医療従事者やCOVID-19関連対策の業務に従事している方々のメンタルヘルスの問題である。ひとつは燃えつき症候群であるといわれている(毎日配信されている米国精神医学会のメールでも米国で問題になっていると報告されている)。燃えつき症候群(バーンアウト)とは、仕事などに一生懸命に没頭したのにもかかわらず、思ったような結果が出ずに「燃えつきた」ように意欲を感じなくなる状態である。
 また、医療従事者やCOVID-19関連対策の業務では多忙で人員不足を指摘されており、業務の付加によりうつ病をはじめとする精神障害の発生も心配される。

 最後に、長期的にはCOVID-19の感染拡大によりGDPなどの経済指標も悪化しており、今後の経済状況のさらなる悪化により倒産や失業が増えると思われる。これらにより、うつ病をはじめとする精神障害の増加が心配される。うつ病が増加すれば、不幸にも自殺に至ってしまうケースも増えてくるのではないかと心配される。
 以上のように、COVID-19の感染拡大により短期~長期的まで様々な精神障害が惹起される可能性がある。自殺に至るという最悪の結果を防ぐためにも、精神的変調を来したならば早期に精神科を受診することを強く勧めたい。

聖徳大学保健センター教授(精神科医)
丸田 敏雅


2020年8月25日

一般社団法人日本自殺予防学会・日本自殺予防センターの主催で、
2020年9月13日(日)にオンライン(ZOOM)イベント・シンポジウム
*「つながれない」時代の自殺対策 ~ウィズコロナをどう生きるか~ *
を開催します。
(共催:一般社団法人日本いのちの電話連盟・島根大学医学部・南山大学社会倫理研究所)

このたび、日本自殺予防学会は設立50周年を迎え、新たに自殺対策の実践に取り組む日本自殺予防センターを立ち上げました。
本シンポジウムでは、日本自殺予防学会やいのちの電話のこれまでの歩み、日本自殺予防センターの活動、最新の自殺研究、ウィズコロナにおける自殺対策や医療従事者支援など、幅広い情報をお伝えします。
参加無料となっておりますので、ご関心のある方はぜひご参加ください。

<詳細>

開催日時:2020年9月13日(日) 14:30~17:30(休憩時間:15:30~16:00)
開催方法:ZOOMを利用
費用:無料
対象:日本自殺予防学会会員・医療関係者・行政関係者など自殺対策に関心のある方 300名 500名 1000名(さらに定員を増やしました)

プログラム:

第1部(14:30~15:30)
 自殺の現状とこれからの自殺対策(司会:影山隆之)
  日本自殺予防学会の歴史と今後の展望(張賢徳)
  いのちの電話の活動の現状(堀井茂男)

第2部(16:00~17:30)
 ウィズコロナにおける自殺対策(司会:森山花鈴)
  これまでしてきたこと・これからすべきこと(河西千秋)
  地域における自殺対策(大塚耕太郎)

 医療従事者支援と自殺未遂者支援(司会:川島義高)
  医療従事者のメンタルヘルスをどう維持するか(太刀川弘和)
  COVID-19感染症の流行と自殺企図・自傷行為および精神保健の問題(稲垣正俊)

参加申し込み:2020年9月6日(日) 9月10日(木) 9月11日(金)正午(再度、締め切りを延長しました)までに、
https://forms.gle/gtdGy4MV8dZpmX8o6
(もしくはポスターのQRコード)
よりお申し込みください。定員に達した場合は参加をお断りする可能性がございます。

お問い合わせ先:日本自殺予防学会広報委員会
jasp.renraku[at]gmail.com([at]を @ に変えて下さい)


新型コロナウイルスに関して 常務理事会からリレーメッセージ④

2020年7月29日

 COVID-19により命を落とされた方に心からお悔やみを申し上げ、いま感染の下に又は不安の中にある方々にお見舞いを申し上げます。この状況で、人々の健康・安心・安全のために奮闘しておられるすべての方々に敬意を表します。
 COVID-19感染を早く収束させるには、理屈で考えれば、医学的な専門家の冷静な判断と、政策担当者の的確な決断に加え、市民ひとりひとりの適切な行動が必要に決まっています。しかし日本の現状を見ると、これらのすべてが今回うまくかみあったとは言えなさそうです。経済の問題を考えなくてよいとは言いませんが、それが感染収束に直接役立つわけではありません。ところが、わたしたちの心は今なお騒然としていて、冷静な判断や決断をしにくい状況にあるのではないでしょうか。そして、身辺や社会のこうした様子を見ていると、日本が大きな災害に見舞われた時の記憶と似たものを感じます。
 特に気になるのは、一定の立場の人に対する攻撃的な言動が、実社会でもオンラインでも強まっているように見えることです。社会不安が蔓延すると人間は、誰かを悪者にして攻撃することで、不安を一時的に紛らわせようとする傾向があるのではないでしょうか。しかし、こうした攻撃性を集中的に向けられると、自分はここにいてはいけない人間なのだと思ったり、人を信じられなくなり孤立感を深めたりする人が出現しそうです。これはジョイナーの“自殺の対人関係理論”で言えば、社会への負担感を知覚することや、自らの帰属感を喪失することに近いものがあり、自殺リスクを高めやすい社会的土壌が醸成されるということを意味しているように思います。
 もしそうであれば、この状況で自殺予防を図るためには、失業や経営困難などの危機に直面している人々への支えに加えて、社会不安に伴う攻撃性を鎮める工夫も必要なのではないでしょうか。そこで心の平安を保つ方策として、日本精神衛生学会が4月10日に公表した市民向けメッセージが参考になるので、要点を引用してみます。

1)
行動制限や隔離が続くと誰でも、不安・抑うつ・絶望・怒りなどを感じやすくなる。親しい人との対話は重要。
2)
メディアが伝える感染情報などに繰り返し曝露すると、二次的受傷により不安やイライラが強まるので、接触時間が長い人は自己制限することも有益。
3)
正体不明の悲しい出来事(引用者注:深刻な感染でも自死でも)に接すると、それを誰かの責任にしたくなる他罰感が無意識に生じやすい。ことに感染症の場合、社会のために個人の自由を制限するのもやむを得ない(社会防衛)という考え方は一面で正当なので、誰かを過度に責めたり差別したりしやすい。この気持を自覚する必要がある。
4)
もともと心の健康問題や家庭内の問題などを抱えていると、こうした状況での負担はとりわけ大きいので、一人で抱え込まずSOSを出すこと、また周りにいる者もこうした人の存在に気づいて声をかけることが大切。
5)
身体活動や規則的な生活は、心の平安を支える。

 これらのメッセージは、健康日本21が説く心の健康にも通じるものがあります――つまり、自分の思いに気づくこと、それを適切な方法で表現すること、情報に振り回されず現実的な判断をすること、人々とのよい交わりを維持することが重要なのです。
 なお見方を変えれば、3)のような社会防衛論は拡張解釈されて、精神疾患や各種の「障がい」をもつ人々、ハンセン病にかかった人々などに対する「差別」の根拠ともされた、という歴史を忘れてはなりません。また、感染対策に限らず現場の最前線で奮闘されている方々は、言わば志願兵(volunteer)として率先して傷つきやすい(vulnerable)立場に身を置いているのだから、これらの方々の労を4)のように周りがねぎらうことは、とりわけ必要です。別の言い方をすれば、支援者への支援ということです。
 確かにCOVID-19は人類が経験したことのないウイルスですが、これによってわたしたちの心が経験していることは必ずしも未曾有の体験ではない、と言えそうです。現実の対策や方針を考える際に、例えば上のような原則をふまえつつ考えることが有益であり、みんなが少しずつ心の余裕を持ち寄って共に考えることで、こうした考慮ができるのではないかと思います。

大分県立看護科学大学精神看護学研究室教授
影山 隆之


2020年7月29日

2021年度(2021年7月1日)以降において会員へのお知らせ事項が発生した際にはメール配信を利用しての案内となります。マイページからメールアドレスの登録状況をご確認いただき、メールアドレスの登録が無い会員におかれましては、2020年度末(2021年6月30日)までに必ず登録をお願いします。またメールアドレス以外の登録情報についてもご確認の上、最新の情報へ更新をお願いします。

ログインには会員番号とパスワードの入力が必要です。
失念された場合は、お問い合わせフォームからお問い合わせください。


新型コロナウイルスに関して 常務理事会からリレーメッセージ③

2020年6月30日

 例年ならば、桜の花も散り、新緑が芽吹く頃から健診をはじめとした地域での健康づくりの事業が開始されます。令和2年は、さまざまな次元で新型コロナウイルス感染症の影響により、地域ではさまざまな困難が生じています。従事者の方々も感染対策との関連で、「事業を中止せざるを得ない」、「事業をはじめてもよいのだろうか」、「どのような対策をすればよいのだろうか」、「訪問にあたってはどのようにしたらよいか」、また「どのような内容にすればよいか」など、さまざまな問題に直面しています。
 安全に支援や対策を提供するために、自己検疫や健康面の評価、マスク着用、人との距離を保つ、不要の外出は避けるなど、支援を提供する上でも、さまざまな工夫や応用が求められています。したがって、地域で推進されてきた支えあいについても、お互いに顔を合わせて支えあうことが難しい状況がでてきました。つながりを確保するため、電話やEメール、SNS、動画通信などさまざまな手段を利用することが増えました。また、日々刻々と変化する状況に関して、適切に、迅速に、かつ広く情報を提供することがより一層求められるようになりました。そして、どのような制度や支援が活用できるのか、さらに制度の枠外となり困難を抱えている方々をどのように支えていくのかということが求められています。したがって、地域の課題を把握し、支援の手が届くようにするために、さまざまな関係機関との連携がより重要となっています。
 自殺対策は地域の困難を抱えている領域への支援や対策を包含していますので、新型コロナウイルス感染症対策での問題とも関連しています。東日本大震災津波の被災地をはじめとした災害による被害を受けた地域や、さまざまな困難を抱えている多くの地域でも、支援と感染症対策を平行して実施することが求められています。そして、難題を抱える支援者にとって、これまで支援の前提とされていたことをもう一度振り返る機会ともなっています。その中でも、寄り添うということをどのような形で提供できるのか、という支援の基本的かつ重要な命題があります。たとえば、飛沫感染予防として、距離を保ちながらビニールシートやアクリル板、フェイスシールド越しで寄り添うために、温かみのある表情や態度のような情緒的支援や、相手にわかりやすい内容を言葉で伝えること、目で見てわかりやすい資料を用意することなどが大事になります。一方、安心して参加できる健康教育や事業となるよう、換気やゾーニング、席の配置など環境面への配慮や、参加される方々の健康面への配慮を行うことを大切にすることが求められます。また、お会いできない方との電話でのやり取りでは、会っている時以上に温かみのある雰囲気や穏やかな声を意識する必要があります。
 実践として一例をあげましたが、困難を抱えている方々への支援の現場では、支援の手法を学び、皆で智恵を絞って工夫し、役立て、実践の知見を深めていくことが日々繰り返されます。支援者が困難に直面することも少なくありません。そのような場合には、支援の基本に立ち戻ることが役立つことがあります。日頃から皆様が実践されている温かみをもって傾聴し、おかれた状況を理解して、共感し、必要な支援につなぎ、見守るという対人支援の基本を思い起こしていただくことで、新型コロナウイルス感染症対策が求められている状況においても、より良い支援につながっていくきっかけとなると思います。
 そして、地域の支援には多くの方々がかかわっておられますが、ストレスや生活面への影響が継続する中で、疲弊し、心身面の不調が生じることも起こりえます。現場で献身的に活動されている方々へ敬意を表しますとともに、ストレス対処に目を向け、セルフケアを実践し、自分に困難が生じた場合に抱え込まず、周囲に相談することを大切にしていただきたいと思います。今後も続くと想定される地域の課題に対して、困難を抱えている方々と寄り添う従事者一人ひとりの健康が大切にされることが、対策の推進につながると思います。心より自殺対策や感染症対策に関わる皆様方のご健勝をお祈り申し上げます。また、私自身も引き続き地域の従事者の方々と一緒に活動しながら、その一助となるよう努力していきたいと思います。

岩手医科大学医学部神経精神科学講座教授(精神科医)
大塚耕太郎


新型コロナウイルスに関して 常務理事会からリレーメッセージ②

2020年5月29日

 海外の方から、知人を介して、「新型コロナ感染拡大下での自殺予防が重要な課題になる」、「日本の自殺対策について知りたい」という質問をいただきました。そのお返事にも書いたのですが、COVID-19だけに特殊な自殺予防法があるわけではないので、自殺という複雑な出来事の根っ子にある、多くの方に共通する本質的な問題を踏まえて、基本に忠実に、自殺に傾く方一人一人に向き合い、対応することが大切です。自分のセンサーの感度を上げて、精神的に不調な人に気づいたらちょっとお節介のつもりでその方にお声掛けをして、「何かあったのですか?」、「どうして落ち込んでいるのですか?」、「何か苦しいことがあるのですか?」と、その事情を尋ねてみることです。そして、その人の理解者になってくれそうな人や、自分と一緒にその人にお節介をしてくれる人を一人でも二人でも増やし、状況によっては、自分が仲立ちとなって、具体的にその人の助けになりそうな人や相談窓口、専門職につなげていきます。今回の場合は、COVID-19問題が生計を直撃しているので、つなぎと、実際につながった先での具体的な支援が特に重要です。支援の融通性・柔軟性というところでは、ドイツ政府による、迅速な国民個人の口座入金が賞賛されています。年度末には、その支援金の必要性や使途の妥当性が精査されるとのことなので、大盤振る舞いとは異なるようですが、日本政府というか、日本人にはなかなか真似のできない施策です。ドイツ人と日本人の違いがどうこうということはさておき、こういう迅速対応が、果たしてドイツや北欧のようにレジストリ・システム(マイナンバーの発展型)があればできるのかどうか、問題が山を越えたところで議論になるのかもしれません。北欧では、医療に関するレジストリ・システムが発達していて、実はそこが自殺問題の実態分析や予防対策の方向性を検討するうえで大きな効力を発揮しています。
 私を含む何十人かの学会員は、かつて自殺未遂者支援の方法の開発にどっぷり関わり、当事者の方々が抱えている生活上の問題をなるべく詳しくお聞きし、複数の問題解決アプローチにより具体的にその問題を潰していくことで自殺再企図を予防し得ることを明らかにしました(「HOPEガイドブック」、へるす出版)。「人は、霞を食べては生きられないし、死とは何かを哲学的に探索して自殺をするわけではない」、「大事なのは、具体的に明日からどうやって生きていくのかということ・・」と、当事者一人一人の事情に合わせた活動を今も心掛けていますが、一方で、人が便宜上作り上げた、紙に印刷された“お金”などで死ぬことはない、死んでほしくないと清々しく言い切る人もいます。「自殺」(朝日出版社)という本を書いた末井昭氏は、子どもの時に経験した衝撃的な出来事、ご自身の人生の迷走(といってよいのでしょうか)体験、そして出会ってこられた方々の人生を振り返ります。お金のことも氏の体験に基づくのですが、「お金に囚われてしまうと、お金のことで精神状態もおかしくなってしまうのは事実で、そういう経験が僕にもあります」と書いています。本書で末井氏は、「人はなぜ生きるのか」などと力説することはありません。人はただ一度生き、一度死ぬものだと諦念しつつ、かと言って虚無的になるわけではありません。末井氏が、本書に登場した方々すべての振る舞いや生き方を受容する姿勢に、読み手は穏やかな気持ちにさせられます。この本をどう読むのかは人それぞれだと思いますが、この本を読んで気持ちを整理できたり、開き直ることのできる人もいるかもしれません。
 今のような感染拡大下においては、メディア報道の在り方も重要です。私たち学会員は、このような状況下でのメディア報道の在り方について、国際自殺予防学会が出した緊急声明を翻訳しました(HPでもFBでも読めます)。これを読んでくださった方や、その周囲の方々は、こころの中が視野狭窄に陥らないようにと思います。また、「いのちは大切」、「いのちを粗末にするものではない」という単純な教条主義で自殺予防を語るのではなく、自殺に傾きそうな方々の現実的な苦悩や問題に合わせた支援が行われるようにと思います。

札幌医科大学医学部神経精神医学講座 主任教授(精神科医)
河西 千秋


日本うつ病学会からのお知らせ

COVID-19に関する資料

2020年5月29日


2020年5月27日

新型コロナウイルスの感染拡大の状況下、International Association for Suicide Prevention(IASP、国際自殺予防学会)より、自殺対策として3題の緊急声明が配信されました。それぞれについて、日本自殺予防学会会員である川島義高、河西千秋、太刀川弘和により日本語訳が作成され(監訳:日本自殺予防学会)、International Association for Suicide Prevention(IASP,国際自殺予防学会)による正式な承認の元、刊行に至りました(2020年5月11日)。日本自殺予防学会から、これらの声明文を緊急配信させていただきますので、皆様それぞれのお立場で活用をしていただけましたら幸いです。


新型コロナウイルスに関して 常務理事会からリレーメッセージ①

2020年5月6日

 新型コロナウイルス感染の心配が依然続きます。感染対策の1つとして、人との距離を2m以上あけるというsocial distancingが有効だという考え方が海外から移入され、「社会的距離」と訳されて広く知られるところとなりました。人との物理的な接触を減らすことは感染予防に確かに有効なのでしょうが、このsocial distanceという命名に対して異を唱えている人たちがいます1)。大事なことは「物理的な距離(physical distance)」なのであり、social distanceではないと。
 Social distanceというと社会的な交流すべてが対象になるようなイメージを与えかねず、孤立や孤独につながる危険性を秘めてしまいます。また、既存の差別感情に悪用される懸念もあります。そうなってはいけません。
 「物理的距離」を取ることは感染対策上やむを得ませんが、孤立や孤独を防ぐため、電話や手紙、Eメールなどインターネットの交流手段を活用し、精神的・情緒的な交流の維持に努めていただきたいと思います。
 「ステイホーム」も、日本ではそれだけのキャンペーンワードですが、海外の報道を見ると、「Stay at home. Stay in touch.」と書かれています。とてもいいですね。精神的・情緒的交流の重要性が一般の人たちにも広く伝えられているのです。
 「正しい知識を持って、適切に恐れ、適切に対処する」ことがとても大切です。どこに向けていいかわからない怒りや欲求不満が、分断やヘイトを生む負のエネルギーに向かわないように、私たちの優しい気持ちが伝わるように、social distanceをphysical distanceに、stay at homeをstay at home and stay in touchに置き換えていただきたいと思います。

  1. Reger MA, Stanley IH, Joiner TE. Suicide Mortality and Coronavirus Disease 2019 – A Perfect Storm? JAMA Psychiatry Published online April 10, 2020.

帝京大学溝口病院精神科教授(精神科医)
張 賢徳


新型コロナウイルスに関して 理事長からのメッセージ

2020年4月7日

 新型コロナの勢いが止まる所を知らず、社会全体が不安に陥っています。感染拡大を食い止めるべく、4月7日、日本で初めて緊急事態宣言が発令されるとの報道がなされています。まずは感染拡大を防ぐことが先決です。同時に、私たち日本自殺予防学会としては、新型コロナ問題に関連する自殺(以下、コロナ関連自殺と呼びます)を少しでも減らす方法を考えたいと思います。
 コロナ関連自殺としてまず考えられるのが、経済不況に関連して起こる自殺です。自殺に至るプロセス(自殺プロセス)の重要な要素として経済不況があるのは間違いありません。経済的打撃に端を発して起こる自殺が増えるのはもう少し先かもしれませんが、だからこそ今から対策が必要です。その具体的な経済対策は政府に頼るほかありませんが、休業補償に関してネット上で、ある有名人が「そういう職業の人への休業補償に税金を使わないでほしい」という趣旨の発言をしたというニュースが流れ、私は「分断」が怖くなりました。
 コロナの経済的影響は職業によって大きく異なるのかもしれませんが、「社会全体」や「人類全体」という視点で、このコロナ危機を乗り切ることを呼びかけたいと思います。「分断」ではなく「団結」が必要です。団結という言葉が強すぎると感じられるなら、「協力」や「連携」、あるいは「互助」でいかがでしょうか。とにかく、分断やヘイトだけは避けなければいけません。
 次に考えねばならないコロナ関連自殺は、いわゆる「コロナうつ」や「コロナ不安」と言われる状態が含まれる精神的変調が介在する自殺です。自殺行動が起こる時には何らかの精神科診断がつくほどの精神的な変調をきたしている人が圧倒的に多いというのは、自殺に関する重要なファクト(事実)ですが、コロナの影響で既存のうつ病や不安症が悪化している人たちのことが心配です。また、コロナの影響で新たにうつ病や不安症になる人もおられるでしょう。いずれにしても、「コロナの心配や経済的苦境は本当にあるから、こんな精神状態になっても仕方ない」と過度に了解し過ぎて、病気を見過ごすことがないようにしなければなりません。
 まずご本人に向けてのメッセージです。これまで経験したことのない強く、長引くうつ気分や不安を感じたなら、我慢し過ぎないで信頼できる人や精神保健の専門家(精神科医療機関や行政の相談窓口など)に相談してください。
 家族や同僚など周りの人たち(つまり、私たちすべて)へのメッセージは、自殺予防のゲートキーパーの1丁目1番地であるTALKの原則を日頃から実践していただきたいということです。自分の周りで普段と様子の違う人を見かけたら、声をかける(Tell)、具体的に尋ねる(Ask)、傾聴する(Listen)、応援を求める(Keep safe)のです。
 精神保健従事者へのメッセージです。普段の業務遂行時、自殺予防の意識を常に頭の片隅に置いていただき、希死念慮の確認を始め、自殺リスクの発見と対応に努めていただきたいと思います。
 最後にもう1点、正しい情報の重要性について述べておきます。コロナ関連自殺の報告が医学専門雑誌にどれくらい掲載されているのかを検索システムPubMedで調べたところ、ヒットしたのは1件だけでした。それは2020年2月18日にAsian Journal of Psychiatryに受理されたLetterで、タイトルはFear of COVID 2019: First suicidal case in India !で、あるインド人男性の事例報告です。自分がコロナに罹ったと思い込んだその男性は、コロナ感染患者が中国でひどい扱いを受けている映像を見て恐怖を感じていたため、自らを隔離し、遂には自殺してしまったのです。この報告の著者らは、ソーシャルメディアは正しい情報の普及に努めるべきだと強調しています。正しい情報の普及の重要性は私も同感です。それは分断やヘイトを防止することにもつながると思います。
 言い古された言い方ですが、正しい情報をもとに適切に恐れましょう。そして、互助の精神で協力しながら立ち向かっていきましょう。分断やヘイトはだめです。精神的な変調に気づいて手当てすることも大切で、それが自殺予防にもつながります。
 当学会の会員の皆様におかれましては、普段の日常生活を続けていただく中で、自殺予防の意識をお持ちくださるようお願い申し上げます。それぞれの立場でできる日々の小さな積み重ねが、いつか大きな力を発揮すると信じています。

一般社団法人 日本自殺予防学会
理事長 張 賢徳


「自殺に傾く若者への対応に関する提言」

2019年12月4日

座間市の事件を機に社会問題となっている自殺に傾く若者への対応について、本学会は、
1)自殺願望の心理的背景の正しい理解、
2)インターネット上の自殺関連情報の適正化、
3)若者の自殺に関連する慎重な報道、
4)インターネットを含むハイリスク者への包括的な自殺予防対策の推進、を政府、行政機関、報道機関の皆様に提言いたします。


HOPEプログラムの資料紹介

2020年4月8日

「The HOPE program standards(英語版)」を公開しました。この文書は、2016年度に新設された診療報酬評価「救急患者精神科継続支援料」に定められている自殺未遂者支援(救急医療施設を起点とし退院後も継続して提供される積極的なケース・マネージメント)について、その標準的な方法を英語で記述したものです。当学会が監修した「HOPEガイドブック」と合わせてご活用ください。

自殺未遂者に対する「積極的なケース・マネージメント」の効果は、我が国で実施された多施設共同による無作為化比較試験 ACTION-J study(Kawanishi et al., Lancet Psychiatry, 2014)」により明確に示されています。そこで、日本自殺予防学会では、実際の臨床場面において適切に自殺未遂者ケアを提供いただけるよう、診療報酬評価にかかわる要件研修「自殺再企図防止のための救急患者精神科継続支援研修会」を開催するとともに、「HOPEガイドブック」( へるす出版)を監修出版し、その普及と啓発に努めて参りました。その後、多くの問い合わせを海外からもいただいたことから、今回、「The HOPE program standards(英語版)」を準備いたしました。国内にとどまらず、医療制度の異なる諸外国においてもエビデンスに基づいた自殺未遂者支援の実践に役立てていただけたらと期待しております。



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